プログラム

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番ハ短調
シューマン交響曲第2番ハ長調
第一曲目のベートーヴェンの3番は、じつは苦手な曲。どうも、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中では、バランスに欠けるように思えてならない曲だからだ。1番の華麗さ、2番の新鮮さ、4番の静寂、5番の豪華さの中で中途半端という印象が強い。
バレンボイムは、サントリーホールの中央にピアノを配し、反響板を取り除いて開けっ放しのピアノに向かい指揮を執った。そこには天才ピアニストとフルトヴェングラーに言わしめたテクニックと魂の込められた音で、苦手な曲を曲自体の嗜好を超え作品を通してバレンボイムの気持ちをじかに受け止めることが出来た。スターツカペレの音は、重厚で妥協をひとつも許さない確固たるものであった。アンコールにはシューマンの幻想小曲集から「夕べに」を聴かせてくれたが、体全体を使って内なるものをすべて聴き手に伝えんとするバレンボイムの音は、聴きなれたアルゲリッチの軽やかな響きではなく、音の強弱と抑揚により心を揺さぶる音になっていた。指揮者と向かい合えるP席で良かったとつくづく思った。
2曲目のシューマンの2番はコンサートで聴くのは始めてであった。1楽章の重々しい弦の響きと、金管群の生き生きとした華やいだ音に魅了され、3楽章の今にも壊れそうなガラス細工のようなメロディを、アンコールでも見せた表現力を指揮でも発揮し、オーケストラをバレンボイムの弾くピアノへと変身させていた。そして、最終楽章の圧倒的な迫力を全身で受け止めながら、コーダに心酔しきって曲を閉じた。すばらしい響きであった。流石ドイツ最古のオーケストラという感想であった。会場の万来の拍手の中何度も何度もバレンボイムは挨拶を繰り返した。もっとも感動的であったのは、オーケストラ全員を立たせ会場を360度見回すように挨拶をさせたところである。オーケストラも会場の聴衆の歓喜を、受け止めてくれているそんな親近感があった。
最後にワーグナートリスタンとイゾルデ「愛と死」が演奏された。流石に国立歌劇場管弦楽団だけあって、もっとも得意とする楽劇用の曲をオーケストラの一人一人が全身全霊を込めて演奏していた。すばらしい演奏であった。