都響 指揮/ジャン・フルネ ピアノ/伊藤恵

ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」op.9
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番 ハ短調 K.491
ブラームス交響曲第2番 ニ長調 op.73
開演の7時を過ぎても、楽員がステージに現れず、昨年フルネ翁が高血圧で指揮できなかったことが思い出される・・・待つこと5分、ようやく開演のチャイムと共に楽員が登場。
チューニングの後、フルネ翁登壇。昨年フォーレのレクイエムを聴いたときの元気がなく、さすがに92歳の高齢だとあらためて思う。しかし、人に頼らず自分の足で指揮台へ。
楽譜は黒塗りの大判スケッチブックに拡大されている譜面が用意されていた。演奏中、たどたどしくも一枚一枚指揮をしながらめくる姿は、さすが年季の入った指揮者だなぁと感心。
ローマの謝肉祭は、若干テンポがゆっくり目であるが、盛り上がるところでは力強さをひしひしと感じる。オケのメンバーも、指揮者の体の自由さが欠けた分バックで盛り立てているようだった。今日が終わり拍手で指揮者をステージに呼ぶのも、あまり回数が多いとつらいだろうなぁとやや控える。会場の皆もそう考えたのではないだろうか。
さて2曲目のピアノ協奏曲24番、最後のコンサートでこの曲を愛弟子といわれた伊藤恵と競演するのがまた渋かった。伊藤恵のピアノもフルネとの間合いを計りながらの気遣いがひしひしと伝わってくる演奏で、その気持ちに一気に感情が高まってしまった。2楽章のうっとりするようなメロディは、フルネの60年余に渡る音楽家としての最高のプレゼントになっただろう。演奏後、フルネに深々と挨拶する伊藤に微笑むフルネ。まさに言葉は要らない師弟愛だなぁと感じた。やはり最後の競演は伊藤恵をおいて他にはいなかっただろう。
そしていよいよ、指揮者人生最後の指揮、ブラームスの2番である。これはもう、都響の腕のいい音楽家たちが、フルネを盛り立ててすばらしい花道を作ったという演奏だった。すべての音に緊張感があって、この一瞬を大切にしようという魂のこもった音だった。特に3楽章の弦5部が互いに語りかけるような部分はすばらしかった。こんなにきれいな掛け合いがあったのを今まで聴きのがしていた。
いよいよ、黒い大判のスコアの最後のページがめくられたとき、涙があふれてしまった。
フルネ翁の手が最後の一瞬を刻み込んで、最後の音が消えてから会場割れんばかりの拍手。会場のあちこちで立ち上がって拍手をする聴衆がいた。自分も2度目のカーテンコールから立ち上がってフルネ翁の長い指揮人生に拍手を贈った。
都響からは、花束と永久会員券が贈呈され、楽員も聴衆も一体になってフルネ翁を讃えた。

92歳で今日のこの3曲、昨日も含めればかなりの時間、全身全霊をこめて指揮をするフルネ翁はすごい。
こんなに感動したコンサートは、先にも後にもこれが1番であろう。最後のコンサート、指揮をこの目で見ることができて実に幸せであった。
フルネ翁のご健康を祈りつつ、会場を後にした・・・・うるうる