読了 『カスパ− ハウザ−』地下牢の17年

A.V.フォイエルバハ 著 | 中野 義達 訳 | 生和 秀敏 訳

野生児の記録〈3〉カスパー・ハウザー (1977年)

野生児の記録〈3〉カスパー・ハウザー (1977年)

最近関わっている仕事から、この本を読んだが、人間の発育と精神の発達について
大変興味深く読んだ。17年間十分な光も、愛情も受けずに成長した一人の青年が
周りの環境をどのように認知し、理解していったかの過程から、青年期にいたるまでに
人間がどのようか知覚、感覚を順次獲得していくかのプロセスを理解することもできる。
カスパーはかなりの長期にわたり孤独な状態で地下の監獄に囚われていたと推測されるが
このような特殊な環境におかれ人間らしさを失いつつも、学習によって言語を取得し
周りの環境、目に見えない事物についてをも理解していく様は驚嘆に値する。
しかし、多くの人間が幼児期から幼年期、青年期を経て徐々に獲得する知識、経験を
急激に与えることは、カスパーの様子からも大きな負担となっていたことは明らかである。
例えば、目の前に見える遠くの事物を、カスパーは触ろうとする。遠くの景色を見て、
それがたとえ見えていても、手の届かないものであると幼児期に当然経験をしているはずの
経験がなされていない例証である。狭い部屋の中に押し込められ、緑の木々や星空を見て
こなかったカスパーには、はじめて見る外界の景色はどのように見えていたのだろうか。
また、不思議にもカスパーには金属に対して引力のようなひき付けられる感覚を持っていたり
と常人では考えられない力を有していたという記述があった。
よく、第6感は子どもに宿っているが大人になると消えていくという類の話に近いが
人間に本来ある潜在的な能力が、成長過程のなかで消え去ってしまうのかも知れない
と推察される箇所がいくつかあったのが印象に残った。
なぜ、カスパーがこのような環境下に長い間置かれていたかの推論は、多くあるらしいが
DNA鑑定などを駆使しても未だ解明されていないとのことである。
実に興味深い事例であり、様々な思いを持つことのできた本であった。