読了7 プリーストリー 『夜の来訪者』夜の来訪者 (岩波文庫 赤294-1)作者: プリーストリー,安藤貞雄出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2007/02/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 71回この商品を含むブログ (84件) を見る

本作は、戯曲ものなので役者になったつもりで読み進めた。「最後のどんでん返し」と
わざわざ本の装丁に記してあったので、どう話がひっくり返るのかを楽しみにして
読んだが、予想外の結末に驚きも倍増であった。
本作の時代設定は1912年、ヨーロッパにおいてはバルカン戦争勃発、タイタニック
沈没と不穏な世界情勢であっただけでなく、話の中に出てくる労働運動も盛んだったという
時代背景を考えるとなお面白みも沸いてくる。
ある裕福な家庭に舞込んだ不幸な事件、その事件の背景に家族の様々な暗部が見え隠れする。
戯曲である本作は、日本においては俳優座で東野英次郎が警部役として初演されたという
が、いかにも俳優座で上演されそうな社会派の演劇である。
時々、交通ルール、マナーを守らない車を見たときに「高級外国車だよ・・このくらいの
神経がないと、社会で成功してお金持ちになれないのかもなぁ」と漠然と思ってしまうこと
を思い出した。(決してそうではないのだろうが・・・)
前半の家族の実業家一家らしい華やかな会話は、後半との対比の中で十分生きている構成と
なっている。短いながらも実に巧みに読者(あるいは観客)の心理を考えた作品である。
書かれた時代は、今と違っていても作者のメッセージは時代を超えて我々に強く訴えかけてくる。
いい作品であった。