読了101 杉本 晴子 『穴』穴作者: 杉本晴子出版社/メーカー: 読売新聞社発売日: 1996/07メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る

この作家なかなか面白い。婦人公論に連載された短編に書きおろしの表題作
で構成されているが、全体にセピアがかった古めかしさを感じる作風である。
そこがこの作家の魅力のような気がする。今においては古めかしさとして
感じられるのだが、川端康成の『山の音』と重なり合うものをも感じる。
妻に死に別れた独居老人がたまたま目にしたピクスドールと呼ばれるアンティー
人形に惹かれ、孫のように心を寄せていくという作品や、鎌倉の旧家に嫁ぎ
その庭にある穴と義母に翻弄される表題作は特に印象的である。
女性の目から見た男社会が物語の根底にあるようで、その点でもやや一昔前の
結婚観など、この作品をセピア色にしているのかもしれない。
受賞歴こそ数ないが、しっかりした日本語で書かれているなぁと関心しつつ
読了。
そうそう、話の中に「山こんにゃく」の花を愛でる女が登場するが、「山こんにゃく」
の花を調べてみて、登場人物の不可思議な性格をあらためて感じた。
この花を小説の題材に持ってくるところなんぞ、いよいよ不思議な作家に思える。
寒々とした日にもってこいの作品だったように思う。