読了120 首藤 瓜於 『脳男』脳男作者: 首藤瓜於出版社/メーカー: 講談社発売日: 2000/09メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 11回この商品を含むブログ (14件) を見る

2008年は年明けに『ハサミ男』でスタートしたが、目標120冊の最後は
『脳男』であった。第46回江戸川乱歩賞受賞作の本作で描かれるのは、自我の
形成ができない男である。物語は中部地方のある都市に起こる連続爆破事件から
始まる。犯人を追う刑事が捕らえたのは主犯ではなく共犯と思われる男だったが
、その男には不可思議な点が多く精神鑑定に回される。そこで鑑定を担当した女医
がその男の謎を追っていくと・・・と、犯人追跡劇でも犯罪ミステリーでもない。
生まれながらに驚異の記憶力を持つ反面、感情の一切を拒絶する男の生い立ちを
追いながら、認識と理解、判断、意思決定という脳の機能について深く考えさせられる
内容であり。認知心理学なぞに興味があっただけに実に面白く読んだ。
このような症例の人物を主人公にすると、物語り全体に一種SF的な要素も加味でき
まるで『ジーキル博士とハイド』『超人ハルク』のような様相を呈しながら
人間の驚異に打ち震えながら読み進められる。エンディング後の主人公の生き方を
あれこれ夢想しながら読後感をしばし味わう。江戸川乱歩賞を審査員の満場一致で
決まったと聞くがなるほどである。