読了 桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』赤朽葉家の伝説作者: 桜庭一樹出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2006/12/28メディア: 単行本購入: 8人 クリック: 148回この商品を含むブログ (506件) を見る

架空の土地(といっても鳥取県の地方都市)で、架空の人々を描きながら
山陰の古くから残る風習や戦後の産業を織り交ぜて、リアリティを出し舞台設定
がなされている。読み進めながらどこまで現実なのか、空想なのかの境目をふわりふわり
と漂いながら、そこに描かれる人々を俯瞰する手法に酔った。
これぞ小説の醍醐味なのだと感嘆す。
実に面白い手法による、切れ味すっきりで読み応えのある作品だと思った。
ジブリ作品のような不思議な感覚はここ最近は味わっていなかっただけに
久しぶりに楽しい時間だと感じた。
非業の死を遂げた者を行くべきところへ連れ立つ山の民の子ども「万葉」と
その子「毛鞠」孫の「瞳子」と三代にわたる生き様が三部構成で描かれている。
物語は孫である「瞳子」が、母や祖母にまつわる話をまとめる形であるが
そこは小説。まるでその場で見ているかのような描写によって三人が生き生きと
描かれている。
不思議な力を持つ祖母と常軌を逸した荒くれ娘の母を持つ「瞳子」は平凡であるが
この女性それぞれの生き方はまさにその時代に生きた女性をシンボリックに描いて
いるようだ。不思議な力が信じられていた時代、戦後地位の向上を目指した時代
そしてあるがままに凡々と時代の中に生きる現代と三人の個性は彩られている。
読みようによっては奥の深い時代小説でもあり、2008年のこのミステリーが
すごいの2位を獲得しただけの魅力は十分に感じられる作品であると思う。