読了 伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』オーデュボンの祈り (新潮文庫)作者: 伊坂幸太郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2003/11/28メディア: 文庫購入: 21人 クリック: 154回この商品を含むブログ (832件) を見る

登場人物はコンビ強盗をしてたどり着いたのが、不条理に満ちた島だった。
そこに住む人々は、社会から隔絶されながらもどことなく現代社会を生きている。
島の人間も、それぞれに個性があって独特の世界を形作るが、中でも圧巻なのは
島の中心的存在「優吾」である。彼は人間ではない。未来が見える案山子なのだ。
このシュールな世界と、主人公伊藤を追う異常な警察官の現実が相互に行き来しながら
物語が展開される。題名のオーデュボンは実在の人物で実物大の鳥類図鑑を刊行した
人物だそうだ。この物語に出てくるのは彼の観察したリョコウバトであるが、20世紀初頭に
乱獲のため絶滅した鳥である。また、この異様な島の始まりは支倉常長であったり
史実と現実、非現実というそれぞれの世界を混在させながら、読者を翻弄する実に
不思議な読みものとなっている。
結局読み終わって、ぼんやり振り返れば「カオス」だの「善悪」だの様々なことを
知らず知らずに考えながら読んでいた自分に気づく。
本書は新潮ミステリー倶楽部賞受賞作である。他の作品を圧倒していた作風に頷けるものが
ある。