ベートーヴェン ピアノソナタ11

◆ピアノ・ソナタ第24番 嬰ヘ長調 Op. 78
pf;アニー・フィッシャー

ベートーヴェンが生涯尊敬していたというテレーゼ・フォン・ブルンスヴィックという
伯爵令嬢嬢のために作曲したということで「テレーゼ」と副題がついている。
テレーゼから肖像画を贈られた返礼が作曲の動機らしいが、2楽章構成の大変短い
曲である。23番の熱情のあの3楽章から4年という沈黙を破ってのピアノソナタ
あまりにも対象的な雰囲気を持っている。1楽章の実にはかなくも美しい旋律と
2楽章の軽快なリズムが、贈り主テレーゼへの深い慈しみさえ感じられる。
テレーゼは生涯独身を貫いている。1810年初めに彼女に結婚を申し込み、拒絶された
テレーゼ・フォン・マルファッティとは別人である。
フィッシャーのピアノは語りかけるような出だしから、中間部の躍動感といい心に染み渡るよう
な優雅でやさしい演奏でお気に入りである。
◆ピアノ・ソナタ第25番 ト長調 Op. 79
pf;ロナルド・ブラウティハム

この曲は1809年に作曲され、第1楽章にはドイツ風にという支持が書き込まれている。
二人一組で踊るレントラーのリズムに乗って、第2主題がカッコウを連想されることろから
カッコウソナタとも呼ばれる。このころの作品に小さなものが多く、この25番も24番
同様短い。作曲者自身はソナチネと出版に際して指示をしている。
なんといっても、この曲の真髄は軽快なリズムにあり、1楽章、3楽章は実に軽ろやかで
すがすがしい。ブレンデルの演奏と比べたが、その軽妙な演奏からブラウティハムを聴いている。
この曲を調べていて、カッコウの表記がさまざまな言語で似たような表現をしているのに気づいた。
ドイツ語でKuckuck、英語でもcuckooと表現したり、アイヌ語でも同じような表現をしているらしい。
もしかして、桜田淳子のクッククックーという青い鳥はカッコウなのか?
◆ピアノ・ソナタ第26番 変ホ長調 「告別」 Op. 81a
Pf;ギャリック・オールソン

1810年に完成、翌1811年に出版されている。彼のパトロンでもあり親しかったルドルフ大公が、
ナポレオン軍の侵攻により一時ウィーンを逃れていたことを織り込んで作曲したという。
1楽章冒頭には「さようなら」と歌詞までついている。自分自身で標題をつけたのは「悲愴」とこの
「告別」の2曲である。1楽章「告別Das Lebewohl」、2楽章「不在Die Abwesenheit」、3楽章
「再開Das Wiedersehenと表記され、このテーマで曲が構成されている。
しかし、3楽章の再開の表現はやや少女趣味的な歓喜のようで、どうも違和感を感じるが・・・
最後に主和音の連打とオクターヴトレモロできりっと締めている部分は好きなフレーズである。
◆ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調 Op. 90
pf:アルフレッド・ブレンデル

1814年ベートーヴェンのスランプ期(聴力の喪失、結婚の失敗、経済的な問題など)にあって、
この曲は、今までの作品とは一線を隠すような作風かと思われる。
第1楽章の力強い主題を追って愛らしい副旋律が流れ、それに続く曲想にも情感が込められている。
第2楽章はどことなくシューベルトのようなロマンティシズムがあふれ、静かに内省する作曲者の
心の内が垣間見られるような気がする。カンタービレで歌われるゆったりとした旋律と消え入るように
終わる終結部は美しく輝いている。ブレンデルは2楽章の指示「速すぎないように、そして十分に
歌うように奏すること」を見事に表現していて、何度聞いても飽きがこない名演奏だと思う。