読了 シェークスピア『ヘンリー6世』第1部〜3部

  『リチャード3世』

この作品はシェークスピアの最初期の作品だが、(研究者の中には
文体の違いなどから他の作者がいて、シャークスピアも加筆している
という見方もあるようだ)日本語訳といえどなかなかテンポのある
台詞回しで楽しめる。それにしても、第1部にはジャンヌ・ダルク
登場し、イギリスのフランス統治の終焉の時期が描かれる。それ以降
第2部、第3部、リチャード3世ではばら戦争で有名なランカスター家
とヨーク家の権力抗争が描かれるのだが、その人物構成は実に複雑。
伊形洋著『シェイクスピア作品・人物事典』

シェイクスピア作品・人物事典

シェイクスピア作品・人物事典

を片手に読まないと、途中でわけがわからなくなりそうで、昔習った世界史を
思い出そうとしても、十分な知識を持っていないのが悔やまれつつも
当時の様子を調べながら読むのもなかなか乙であった。
小田島氏の本『シェイクスピア遊学』によれば、シェイクスピアは若いころ小さな劇団で役者をする
傍ら先輩作家の代筆をしているうちに才筆が認められ、1590年(26歳)
ごろ『ヘンリー6世 第2部』で一本立ち。その後『ヘンリー6世 第3部』
『ヘンリ6世 第1部』『リチャード3世』を書いたらしい。
いずれにしても、初期の歴史劇4部作は、人物相関図なしには読みきれない。
作品の中では、口汚く相手をののしり合い、だまし、憎み、呪いといった醜い部分が
多く描かれ、かたや貴族として名誉を貫かんとし、血統を主張する登場人物たちが
親兄弟までも平然と裏切り、殺す世界が繰り広げられていく。描かれた世界が
シェイクスピアの生きた時代の100年前だとしても、当時の王家の先祖をこのように
醜く描くことができたのも、考えようによっちゃすごいことである。
登場人物の醜い姿に辟易していた自分だが、王座をやっとのことで奪還しながら、
反旗を翻していた敵を殺さずにおいて、挙句の果てに逃げられ、王座を再度奪還される
場面を読みながら、「何でこうならないように殺さなかったのか」などと考えている
自分がいた。第三者として眺めていたはずなのに、いつの間にか劇中の人物の側になって
考えてしまっていたようだ。危ない危ない・・・・