小林古径展

常設展が無料であったが、やはりすぐ横で特別展があれば足を向けざるを得ない。小林古径はあまり知らなかったが、会場の最初の作品から引き付けられてしまった。まずは古径の初期歴史画の優品《加賀鳶(かがとび》の迫力に驚く。この絵にいたる下絵から、いかに構図にこだわっているかがうかがい知れる。そして、火事現場のリアリティは鬼気迫るものを感じた。火柱の圧倒されそうな朱色と逃げ惑う人々、勇ましく火の粉に立ち向かう鳶の姿がじつに生き生きと表現されている。
そして、今回の展覧会のパンフレットにも出ている《極楽井(ごくらくのい)》は、盟友安田靫彦に「この絵で古径芸術は八分通り出来上がった」と言わしめた作品。世俗的表現から古典的題材へと転換し、古典的な中にロマンの香りを漂わせる作品である。目を近づけてみれば、実に繊細な輪郭線で、色使いも実に上品である。
後期には生き物、植物画もなかなかだが、古径全体を見て、どの作品も「じつに静かである」という印象を持った。それぞれは無駄な雑音は一切ない。古径のレンズから観た一瞬をわれわれが時代を超えて共有しているのだ。そう思いながら、チラシをあらためて見ると「寡黙にして匂おうがごとし」とある。まさにうまく古径の作品を言い当てている言葉だと感心した。今回は、残念ながら切手になって有名であった「髪」が展示されていなかった。しかし、この作品は永青文庫にあるらしいので、今度行ってみよう・・・・