フィンランド放送交響楽団

NHK音楽祭、今年はこのフィンランド放送交響楽団と、北ドイツ放送交響楽団のチケットを手に入れた。
プログラム;フィンランディア ベートーヴェンピアノ協奏曲4番 マーラー交響曲4番
指揮;サカリ・オラモ ピアノ;小菅優 ソプラノ;ファニータ・ラスカッロ
1曲目のフィンランディアは、さすが本場の演奏なのだという思いを持ちつつ聴く。金管の響きが重々しく響いている。第2の国歌というだけあって、演奏も数限りなくこなしているのだろう、いささかも淀みなく流れる調べはまさにフィンランド雄大な自然を思わせるものであった。いいねぇ・・・
2曲目のピアノ協奏曲4番、この曲は5月に聴いたラン・ランのピアノの音が残っていて小菅優のピアノと比較しながら聴くことになった。曲の出だしピアノの独奏では、やや硬い感じがしたが、曲の進行に伴いオーケストラのバックに自然と溶け込み4番の叙情的な響きを堪能できた。さすがにヨーロッパ育ちの小菅は演奏後、指揮者やコンサートマスターとしっかり抱き合い微笑ましかった。演奏自体に点数をつければ「良」というところであった。が・・・・拍手に応えてのアンコール、ショパンノクターン嬰ハ短調(戦場のピアニストで有名な遺作)には、度肝を抜かれた。小菅の音楽性はここにありとばかりに魂のこもった心に響く演奏であった。哀しいけれど、涙をうっうっとこらえつつ、背中で泣いているのが伝わってくる調べだったように思います。これには脱帽でした。
3曲目のマーラー4番。この曲の感想の前に、まずマーラーの曲の長さについて・・・・実はマーラーは嫌いではないのですが、冗長なところに嫌気を感じてしまう曲もあります。4番も実はそのうちの一曲でした。これは、ブルックナーにも通じるところですが、「くどい」ところが苦手。それとこれが主題というべきかなり印象に残るきれいなメロディがいったいどれやったのかいなと明確でないところ。作文だったら「言いたいことは完結に、余計なところを切り取ってうまくまとめましょう」となるのでしょうが・・・モーツアルトやベートーベン、またシューマンメンデルスゾーンの曲では、主題が明確で、それを形を変えながら起承転結の中に組み込み最後にしゃんしゃんと手を打って終わります。この基本的な形が中心にあるので、初めて聴いてもおよその見当をおもって聴くことができる、また聞き終わった後も主題が口から出てくるように思うのです。しかし、マーラーブルックナーは聴きこまないとただ長いだけに思えてしまう曲が多い。
 当時の人々は、マーラーブルックナーの曲を、初演の時に正直どう感じたのか興味があります。そもそも、レコードやCDのなかった時代に、あれだけの長い曲のよさを一回聴いただけでどれだけ正確に評価できるものなのかと疑問に思います。人間の脳みそ、パソコンで言えば256Mくらいの(中には512M以上の人もいますが)記憶容量に、あれだけ長い曲をしっかり把握するのは難しいでしょう。しかし、今は、マーラーブルックナーも繰り返し聴きながら、その味わいを堪能でき、かつ曲を覚えることで、頭の中での演奏と照らし合わせながら実際の演奏を聴くこともできる楽しみも増えます。そうして、はじめとっつきにくかった曲も好きになってくるという場合も少なくありません。
 さて、本題の4番ですが、かようにして4番も繰り返し聴く中で少しずつ苦手意識を克服していたのですが、昨日の演奏から形勢逆転しました。この曲の魅力を再発見することができました。やはり、生で聴く演奏にはそれだけのエネルギーがあるのだと痛感しました。
1楽章の天上での楽しげな風景や、2楽章の死神の舞踏の不気味さと滑稽さをイメージできたのは言うに及ばず、3楽章の弦の美しさは、このオーメストラの女性的な響きの美しさでもあるように思えました。(実際オケの半数近くが女性で占められていました。)マーラーの曲でありながら、この3楽章にフィンランドの森と湖を連想したのは意外でしたが、妙に納得できるものがありました。そして、4楽章を歌詞と照らし合わせながら聴けば、なんとも不思議な世界が目の前に思い浮かび、なんだか浮世のせわしなさとはかけ離れた静かな気持ちに浸ることができました。マーラーの4番って、いいじゃないか・・・パラダイムの転換を実感できた演奏でした。(自分にとってはですが・・)
最後にアンコールとして、この前のウィーンフィルと同じ、シューベルトのロザムンデ間奏曲でした。これも、抑揚をもって曲を演出したムーティーとは違い、オラモはひたすら、この曲の弦の美しい響きを前面に出して流れるような演奏で魅了してくれた。じつに素晴らしい演奏であった。最後にオケ全員が一礼をして退場するシーンも、フィンランド人のまじめな国民性なのかとても素敵な感じがした。
 今日のチケットはC1列、3階の一番前の席であったが2000円と安価であった。しかし、演奏終了の9時10分までの2時間10分、まさに素晴らしい時間を持つことが出来た。いい演奏家だったぁ・・・・