読了 井上和雄『ハイドン ロマンの軌跡』ハイドン ロマンの軌跡―弦楽四重奏が語るその生涯作者: 井上和雄出版社/メーカー: 音楽之友社発売日: 1990/02/01メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 7回この商品を含むブログ (3件) を見る

あれほどたくさんの交響曲弦楽四重奏を書いたハイドンについて、その人となりを
もっと知りたいと図書館で選んで読んでみた。
お抱え宮廷音楽家であったハイドンについては、モーツアルトベートーヴェンほど
記録がないようである。本書では、演奏者でもある著者が弦楽四重奏の変遷をたどり
ながら、ハイドンの人物像を再構築するという構成となっている。
ハイドンの生い立ちから、宮仕えの時代、自由に作曲に専念できた時代を、その時々の
作品を通して詳しく説明されているので、興味を持続させながら楽しく読み進むことが
できた。
中でも意外だったのがモーツアルトとの親交である。24歳も離れつつ、互いに尊敬し
あいながら、互いに高めあう関係であったことが良くわかった。
とりわけハイドンが宮仕えから開放され、ロンドンへ旅立つ際にモーツアルトハイドン
が英語を話せないことや老齢であることを気遣い、出発の日には片時もそばを離れず、
いよいよ別れの時には互いに涙を流したというエピソードには、あのモーツアルト
そこまで慕っていたのかと驚いた。モーツアルトハイドンに「多分、僕らはこの世で
最後のさよならを言うのです」と言ったそうだが、事実、ハイドンがロンドンに滞在中の
翌年にはモーツアルトが没している。
最晩年になってさえ、友人がモーツアルトの話題に触れるとわっと泣き出して「勘弁して
ください。僕はモーツアルトの名前を聞くたびにどうしても泣いてしまうのです」と叫んだ
というし、モーツアルトの遺児の教育まで面倒をみていることからも、その思い入れの
強さはすさまじいものあったと想像できよう。