ムンク

国立西洋美術館ムンク展を観る。

今回の展覧会には、有名な『叫び』はないが、3部作といわれる他の2点
『不安』『絶望』を見ることができる。
展覧会のテーマは、ムンクによるいくつかの装飾プロジェクトで構成され、
彼の「装飾画家」としての軌跡をたどるということだが、自分は初めてムンク
直接出会った感想を持つのが精一杯だった。
『叫び』『不安』『絶望』は、いずれも赤く不気味な空模様に、フィヨルド
海岸の桟橋が舞台となっている。そのどれをとっても心の中でぐるぐると渦巻く
なんともいえない感覚にとらわれる。そのどろどろした気持ちこそ、ムンク
作品の狙っているところなのであろう。

『不安』1894年
亡者たちの行進が、画面に黒く溶け込みミイラのような顔だけをこちらを向けて
いる。こちらをじっと見つめ我々に不安を抱かせると同時に、我々自身におびえて
いるようにも見える。ムンクは幼くして、母親、姉たちを結核で亡くしている。
そのために陰鬱になる父親と生活を共にしながら、自らも病弱なことから日々
結核におびえていたという彼の生い立ちを、どうしてもこの絵の中に投影して
しまう。
ムンクの一連の作品を通して、風景をありのままに、人物を生き生きと描く絵画
から、言葉を選び、音楽のように言葉を配置する詩人のように形、色を吟味して
作品とする絵画への大きな転換であると強く思った。
さらに、ムンクの作品には当時の世相やキルケゴールニーチェの思想も反映されて
いるのだろうが、その深遠なる奥深さまでは残念ながら理解できずにいる・・・
ムンクは難しい。