読了5 荻原 浩『千年樹』千年樹作者: 荻原浩出版社/メーカー: 集英社発売日: 2007/03/26メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (24件) を見る

物語は、辺境の地へ赴いた国司が土着の武士の謀反に遭い、妻と幼い子ども
とともに山中をさまよい息絶える場面から始まる。そして、一本のくすのきに
まつわる時空を超え、それぞれが対となっている物語が展開される。
本作品は、それらを集めた短編集である。
荻原作品をいくつか読んできたが、本作品は実に文学的であり、それぞれの作品には
読後の余韻を楽しめる。
千年生きたくすのきが見てきた人間の哀しみ、苦悩は、時代を超え、形を変えつつも
永遠である。それぞれの話は哀しく、哀れで、底なしの不安を感じるが、それこそまさに
人間の業そのものであり、読み進めていく読者の心の奥にまで響いてくる。
いやな本と出会ってしまった。目をそむけ、見ないふりをしようとしても見ずにはいられない
現実がそこに描かれているからだ。いつかまた読み返さなければならない、不思議なエネルギー
を感じた作品であった。