読了19 安岡章太郎『夕陽の河岸』

夕陽の河岸 (新潮文庫)

夕陽の河岸 (新潮文庫)


表題作ほか1991年川端康成文学賞を受賞の『伯父の墓地』など10編で構成されている。
年をとると歳月のかなたから懐しき人々や情景がふと思い出されるのだろうか。
安岡氏の描く記憶は鮮明で、ほろ苦い・・・どれも氏の思い出を語る随筆と思いきや
それぞれを氏自身小説としている。小説であったなら虚構であり、あまりにも見事に騙されているわけだが
果たして小説なのか、真偽のほどは確かではない。ただ、氏をして文学を敢えて随筆や小説などに分けることも
なかろうとさえ言わしめているので、概ね過去の記憶を綴りながら、事実をもとに虚構化しているのか。
どれも、何とも言えぬ不思議なノスタルジーを感じさせてくれ、氏の記憶でありながら読者の追体験にまで
迫ってくる。