読了23 村上春樹『レキシントンの幽霊』レキシントンの幽霊 (文春文庫)作者: 村上春樹出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 1999/10/01メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 39回この商品を含むブログ (247件) を見る

標題の「レキシントンの幽霊」をはじめ「沈黙」「トニー滝谷」「七番目の男」などの
短編を収録。前に読んだ『イッツ・オンリー・トーク』の非日常と違って、これらに
描かれているのは、ありえない非日常或いは非現実的な世界であるが、自分の現実を
照らして共有できる思いがあった。先月、遠藤周作の『私が、捨てた、女』で漱石
太宰の作品との共通点を見出したと書いたが、同じく本書所収の「沈黙」にも同様な
思いを持った。賢く、人望も厚い同級生に秘められた陰湿さを見抜く自分が、同級生の
画策したプロバガンダで孤立させられるという話である。深く暗い孤独を村上流の筆致
で描かれ、鳥肌が立つような思いをした。孤独にさいなまる主人公を救ったものは
憎むべき主犯格への哀しみであるとこもすごいが、煽動のままに無批判に友を見捨て、
責任を負わぬ周囲への恐怖を吐露する結末は衝撃であった。
さて、自分はどう生きているか・・・被害者にも、加害者にも、傍観者でもありは
しないか。そこに人間のもろさがあるのだなぁと頭をどろどろにしながら本を閉じる。
被害者、加害者、傍観者それぞれが孤独でもある。人は最後は孤独であり続け、自分しか
自分を救えないのかもしれない・・・・
どの作品も、普段着の生活の中で深遠な世界を描く秀逸な作品ばかりで、今まで読んだ村上
作品の中でも一番のお気に入りになった。
きっと、読み返すたびに新たな発見を期待できるのではないかと思える作品だと思う。
<沈黙より>
でも僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の話を無批判に受け入れて、そのまま信じ
てしまう連中です。自分では何も生み出さず、何も理解していないくせに、口当たりの良い、
受け入れやすい他人の意見に踊らされて集団で行動する連中です。彼らは自分が何か間違った
ことをしているんじゃないかなんて、これっぽっちも、ちらっとでも考えたりはしないんです。
彼らは自分が誰かを無意味に、決定的に傷つけているかもしれないなんていうことに思い当たり
もしないような連中です。彼らはそういう自分たちの行動がどんな結果をもたらそうと、
何の責任も取りやしないんです。