読了57 湯本香樹実『西日の町』西日の町 (文春文庫)作者: 湯本香樹実出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2005/10/07メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 6回この商品を含むブログ (40件) を見る

昭和を懐かしんで描いた映画や小説になぜ惹かれてしまうのか。
シラーは「おずおずと未来はやってくる。現在は疾風のごとく去り、
過去は悠然と立ち動かない」とか言ったというようなことを
新聞のコラムで読んだが、まさに昭和はいつまでも記憶の奥に悠然と
あり、振り返ったときにいつもいてくれる安心感があるのもしれない。
本作には、無頼の限りを尽くした祖父が、離婚して西の町に住む母子
のもとでともに暮らす場面から始まる。
10歳の主人公から見た祖父の姿と、祖父と母の過去がうまく溶け
合いながら、自分の過去と家族の過去それぞれの糸が編みこまれていく。
読み進めていくうちにわかってくる祖父は、目の前の掃き溜めの中の祖父ではく
その時代時代を生きた人間そのものであって、それは、まさに振り返った時に
悠然と立つ姿としての存在そのものであった。