シューベルト ピアノソナタ5

■ピアノ・ソナタ第15番 ハ長調 「レリーク」 D. 840
レリークとは「遺作」の意味だそうで、シューマンシューベルトの死後に発見した
交響曲「グレート」と一緒に発見して出版されたとのこと。2楽章以降が中途で終わっているが
補筆されてCDで聴くことも出来る。
1楽章冒頭から印象に残る主題で始まり、シンコペーションを多用して実に変化に富んだ曲に
仕上がっている。2楽章はあまりに物悲しい、物憂げな叙情的な曲である。
トッド・クロウとルドヴィグ・セメルジアンそしてブレンデルで聴いたが、三者三様の解釈が
また面白い。上品に仕上げているトッド、叙情性を前面に出したセメルジアン、鬼気迫る迫力の
ブレンデルと、それぞれまったく違う曲かのようである。
クロウ版では3,4楽章も収められている。面白いのは3楽章の動機で「タタタターン」という
ベートーヴェンの運命やマーラーの5番で使われている動機が繰り返され曲が構成されているところ。
4楽章では展開部からの主題の変奏が生き生きとしていて気に入った。完成していないのが残念。
  
■ピアノ・ソナタ第16番 イ短調 Op. 42/D. 845
「のだめ」がコンクールで弾いた曲である。幻想的な曲であり、シューベルトにとっては初の出版作品。
なんとも不思議な曲である。聴けば聴くほど味が出てくる曲であって、初めて聴いたときは「ふーん」と
思うだけで過ぎていってしまうような極なのだが、自分が弾いているような気持ちになって聴くと
緩急、強弱、長短をつけながら弾いている自分があって気分が良い。弾き手好みの曲なのかもしれない。
1楽章の旋律はどことなく東洋的で、展開部ではまるで「五木の子守唄」のような印象を受けるのは
自分だけだろうか?4楽章は雰囲気を一掃し、ベートーヴェンソナタの終楽章のような感じも好きである。

■ピアノ・ソナタ第17番ニ長調
昔、村上春樹の「海辺のカフカ」の中で語られていたので、いったいどんな曲かと聴いてみたことが
あった曲である。「不完全で天国的に冗長で、すべてのピアニストが例外なく二律排反の中でもがく」という
くだり通りの印象で、いったいどこを彷徨っているのかと思うほど先の見えない曲である。
しかし、ヘーゲル弁証法においては、二律背反を超えて新たな段階へ止揚するのであって
この曲を彷徨いシューベルトも後期作品へとつながっていく・・・のかも。

■ピアノ・ソナタ第18番 ト長調 Op. 78 D. 894
シューベルト生前に出版できた最後の曲。シューマンをして「形式的にも精神的にも完璧」と言わしめた
曲でもあり、1楽章の祈るような瞑想の部分だけで自然と引き込まれていってしまう。
ただ、曲全体のバランスから1,2楽章と3,4楽章がややもすると反目しているような印象がして、
どうもぴんと来ないような気もする。聴きたりないのかも・・・・