読了87 玄侑 宗久 『アブラクサスの祭』アブラクサスの祭 (新潮文庫)作者: 玄侑宗久出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/12/22メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 16回この商品を含むブログ (29件) を見る

『中陰の花』で芥川賞を受賞した作者の受賞一作目。薬と酒でなんとか念仏を唱えることの
出来る躁鬱病の禅僧が、自らのアイデンティティーを音楽で表現し、開放していくさまを描いた
作品であるが、しょっぱなの薬を飲むシーンからブルーな世界が繰り広げられる。
しかし、文体はあたかも全編にわたって詩を綴られているような不思議なテンポであり、この
文体に引き込まれるように禅僧の苦悩を共感する。
学生時代の挫折、父親の破綻、自殺未遂・・・自分の経験からはあまりにもかけ離れている
にも関わらず、学生時代にはまったロックバンドに自己解放を求める一介の禅僧になぜか
共感してしまった。物語は禅僧や周囲の人々の視点に自然に切り替わってたり、まるで
お経のようにリズミカルに語られる語り口など、小説としての手法は流石である。
物語が終わってもなおオープンエンドで読者は、この禅僧の行く末を案じながら余韻を
しばらく味わうことになるが、そこがまた味わい深いところであった。