読了100 中河与一『天の夕顔』天の夕顔 (新潮文庫)作者: 中河与一出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1954/06/02メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 8回この商品を含むブログ (50件) を見る

一人の女性を愛し続け、自らの人生のすべてとした男の生き様を描いた作品で
相手への純真な愛を貫いたストイックな恋愛が描かれている。
6ヶ国語に翻訳され、ゲーテの『ウェルテル』と並ぶ浪漫派作品という評価も
されている。戦前に描かれているが、古めかしさなど微塵も感じない文章である。
7つ年上の人妻から愛を告白されてから、その人妻一筋に生き抜き、時に自らを
奥深い山奥で冬を越す試練を課すなど激しいまでの愛を貫く姿は、あまりに
過酷である。
例え離れていても、時間がお互いの間に流れようと思い続けることは十分理解
出来るが、果たして主人公の生き方がお互いに良かったのかは疑問として残った。
互いに幸せであることも、また相手を思うことになるような気がしてならなかった。
あまりにストイックで自虐的であることを、相手が喜んでいてはいないから、
想い続けながらも離れていたのではないか・・・
想い続け離れていることこそ真にストイックであるように思えてならなかった。
その意味において、人妻である「あき子」の生き方こそ尊く、主人公より過酷
であったように思った。
この作品について調べてみると、この話は「不二樹浩三郎という按摩の身の上話
に基づく作品」(ウィキペディア)であったようで、原作を巡っていざこざがあった
とある。共著として欲しいという要求に対し、中河は「話をしてくれただけで、
それがあなたに何の関係があるのですか。法廷へ出ても何処へ出ても」と一蹴した
というから、作者もなかなかの人物のようだ。