読了111 高橋義夫『明治耽奇会』明治耽奇会作者: 高橋義夫出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2002/09メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る

いよいよ今年も残り1ヶ月となった。今年に入って月の目標10冊
として読書に励んできたが、最後の月の1冊目は直木賞受賞作家の
『明治耽奇会』である。
この前に読んだ『東京駅物語』の流れで、図書館で探した明治物である。
読み始めて驚いたのは、登場人物のリアリティである。
主人公が書生として出入りしているのは、あの高橋由一であり、その
人物像を描く辺りはかなり史実を元にしているようだ。
以前、高橋由一に凝って東京藝術大学の美術館に通ったっことがあった。
目的はあの「鮭」である。何度目かに展示を直接見て感動を禁じえなかった。
(ちなみに芸大の美術館には「鮭」のキーホルダーが売られている)
由一は武家の出でありながら、西洋画を志し、明治初頭に活躍したイギリス人
画家ワーグマンのもとへ、東京から横浜まで通ったという。西洋画一筋の人
である。中学校の美術の教科書で見た「鮭」は多くの人の知るところであろうが
そこに至る努力は並大抵ではなかった。
他の作品を調べているうちに山形の県庁辺りの風景や、作品の多くが琴平宮に
あることが不思議でならなかったのだが、この作品を読んでその理由を知ることが
出来て実に嬉しかった。
さて、本書だが、由一をはじめ浅井忠、お雇い外国人美術教師のフォンタネージ
など当時の画壇を象徴する人物名が多く出てくる。その中にあって、物語は
当時の世相を繁栄させたエピソードを中心に淡々と語られる。
高橋由一や明治初期の画壇に関心があると、面白さも十倍の作品である。
筆者高橋義夫作品は初めてであったが、文体、語彙にも明治の雰囲気を出し
ており、隅から隅まで味わい深く構成されていてなかなかの作家とあらためて
感心した。いや、恐れ入った・・・大満足の一冊となった。