読了113 恒川 光太郎 『秋の牢獄』秋の牢獄作者: 恒川光太郎出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2007/11メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 51回この商品を含むブログ (72件) を見る

『夜市』で幻想的な作風に圧倒された恒川 光太郎 の作品である。
11月17日という日が、次の日も、また次の日も繰り返されるという
不思議な表題作をはじめ、日本中を2,3日で渡り歩く不思議な家の
番人になってしまう青年の話、目の前にあるものの姿かたちを変えてしまう
力を持つ少女とその力を育てようとする老婆の話の3作が収録されている。
中でも生き神として神域を守るために、ひとり全国を家と敷地ごと移動する
話は面白かった。何気なく入り込んでしまった神域でそこを守る老人に
自分の代わりにと託されてしまった青年は、自らその神域を出ることが
許されず、誰か他のものを代わりに住まわせなければならなくなる。
ようやく代わりを見つけ逃げてきた青年は、その神域に残した男の所業
に気づき、自らの役割を再確認するという内容である。
まさに不条理な話でありながら、どこか自然に受け入れてしまう不思議さ
が、この物語には感じらられ、そこを感じさせる文章を恒川氏はみごとに
書き上げている。山上へ大きな岩を運ぶシーシュポスの神話同様、その
不条理さは物語り全体の中に埋没する、その大きなうねりがこの作品にも
感じられる。いや、恒川作品は面白い。