読了 姜尚中 『悩む力』悩む力 (集英社新書 444C)作者: 姜尚中出版社/メーカー: 集英社発売日: 2008/05/16メディア: 新書購入: 15人 クリック: 159回この商品を含むブログ (313件) を見る

最近テレビでもよく登場する姜尚中氏の、在日という生まれながらの
境遇の中で「自我」を見出したプロセスをバックボーンに、漱石ヴェーバー
の著作を読み解きつつ現代に生きる人間の「孤独」と「悩み」とどう向き合うか
が書かれている。
意外にも100年前に漱石ウェーバーも、近代化によって「人間性」が押しつぶされ
そうになっていることに警鐘をならしていたことに、著者の引用部分から気づかされたが
漱石のどこまでもグレーな作風の所以がわかったような気がする。
印象に残った一つ目は、前半に書かれている「自我」についての件である。
自我とどう向き合っていくか、「私とは何か」を問い続けることの意味について
考えさせれた。筆者はヤスパースの『「自分の城」を築こうとするものは必ず破滅する』を
引用したが、「自我」を追い求めるあまり、自らの「城」に覆い隠されて自滅してはならない
のであって、現代の個人主義的世界では「自我」は他者との関係の中でしか成立せず、人との
つながりの中でしか「私」はありえないという認識こそ重要なのだと気づかされた。
二つ目は「知」についての件である。高度な科学技術は「知識」を分化し続け、より高度化して
いる。学んだことは日々書き変えられ、情報を常に新鮮なものへ置きかえなくてはならない。
しかし、筆者は「この時期はアサリが大きくておいしい」ということを経験的に知っている
土発的な「知」の見直しも大切だと言う。必要なものと外へ外へ「知識」を追い求めるだけでは
なく、世界を閉じることなく身の丈にあった「知識」に限定し、その世界の中にあるものについては
、ほぼ知悉しているという「知」のあり方もこれからは考えていかなくてならないなと考えさせられた。
最近はテレビ番組に「おバカタレント」を体よく蔑んでいるものが目立っていやな思いをしたが
クイズの答えを知っている「おバカ」じゃないタレント、視聴者が果たして知識人なのか・・・
一瞬の優越感の「知識」でも、深く聞かれると明快に答えられるか?「知っているつもり」まさに
それである。それに乗せられていた自分も反省した。