梨木香歩作品

*読了 梨木香歩『家守奇譚』

家守綺譚 (新潮文庫)

家守綺譚 (新潮文庫)

摩訶不思議でありながら、自然に不可思議な世界を受け入れて
いる自分に気づく・・・そんな作品である。
ボートで行方不明になった友人の実家の家守として住まう主人公が
様々に巻き起こる不思議な世界との対話が描かれている。
無くなった友人は床の間の掛軸からボートに乗って幾度となく訪ねてきたり
河童の脱ぎ捨てた服を見つけたり、信心深い狸が登場したりと非現実の世界が
描かれているにもかかわらず、主人公の生きる現実とうまく調和し、なんら
おかしさを感じないのはなぜであろうか。
夢を見る自分、夢の世界、覚醒したときの自分・・・・どれも自分にとっては
どれもリアリティのある世界であると同じように、ここに描かれている世界は
ありのままに受け入れることができてしまう。これは書き手がうまいのか、本の
世界であることから読み手がはなから非現実の世界に気がつかないうちに入り
こんでいるからなのか、ここまで何の違和感なく描かれた世界にいる感覚は
じつに微妙であった・・・。
小説もこの域に達すれば本物だと思うと同時に、梨木香歩女史に脱帽する。