読了15 アゴタ クリストフ 『悪童日記』悪童日記 (ハヤカワepi文庫)作者: アゴタクリストフ,Agota Kristof,堀茂樹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2001/05/01メディア: 文庫購入: 100人 クリック: 3,630回この商品を含むブログ (276件) を見る

ハンガリーからの亡命女流作家の描く第2次世界大戦下のハンガリーであり
戦時下にあって逞しく生きる双子の兄弟の視線から見た銃後の大人たちの姿が
ここにある。それは、戦時下という場面設定を通して、人間とはいかにあるべきか
の問いそのものである。
母から、母自身が飛び出した生家に疎開させられた兄弟は、大戦の中で祖国の尊厳を奪われた
人々や、ホロコーストで苦しむ被差別民族の人々、また支配者側の人々と出会い、それぞれの
世界を垣間見ていく。兄弟の周りには戦時とはいえのんびりした田舎の景色、暮らしがあるが、
実はその内側には、様々な生き方をする大人たちの善と悪が混在している。
強者、弱者、差別するもの、差別されるもの、貧しいもの、富めるものという表層ではなく
もっと根源にある人間性が、兄弟の目から鋭く描かれる。
物語は全編を通して、子どもの日記として描かれ、そこには大人が震撼するほど鋭利な
視線がある。