読了 松下 竜一『ルイズ 父に貰いし名は』松下竜一 その仕事〈17〉ルイズ―父に貰いし名は作者: 松下竜一,『松下竜一その仕事』刊行委員会出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2000/03メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る

第四回講談社ノンフィクション賞を受賞作、本の紹介文には「大杉栄伊藤野枝の四女である、
伊藤ルイさんの半生を辿るノンフィクション。それはそのまま〈昭和〉を辿ることでもあった。」
「社会の本質に視点を置いた松下文学―彼のノンフィクションは安易な“客観”を否定し“事実”
を確認することの大切さを教えてくれる。」とある。まさにその通りなのだが、この本からは
さらに多くのことを学べた。
大杉栄伊藤野枝というアナキストの生き方、その時代における無政府主義者への弾圧、
関東大震災時に起きた一軍人による殺害から見える戦前から戦中の日本人のイデオロギー
その大きなうねりに翻弄されつつも生き抜いた遺児たちの生き様。実に切なく、物悲しくも
そこには力強い彼女たちのメッセージがずんと伝わってきた。また、遺児である彼女たちを支える
祖母や親類たちの愛。
日本人がいつしか忘れてしまった、逆境に立ち向かうバイタリティを強く感じた。
姉妹それぞれに、それぞれの生き方があったが、ふと立ち止まって振り返ると、時代に歯向かう
父、母が彼女たちの行き方の背景に見え隠れしていると感じた。
事実を丁寧に紡ぐことで、読み手自身がそれぞれに感じ、答えを見出していく、そんな本である。
久しぶりに本物に触れたと大いに満足し読了する。
今の自分が、読んで感じたこと・・・また5年先、10年先に読み直して感じることの違いを
是非未来の自分にじっくり味わってほしいと、心から思える本であった。本を閉じたとき、もっと
たくさんのことを学ばなくてはと焦る自分がいた。