ベートーヴェン ピアノソナタ8

◆ピアノ・ソナタ第16番 ト長調 Op. 31 No. 1
ピアノ:ミヒャエル・コルスティック

ピアノソナタト長調Op.31-1は1802年〜4年に作曲され、17番の「テンペスト」18番「狩」の作品と共に
出版されている。この16番はユニークな作品で、第1楽章の主題は左右の手が16分音符ずれている。
どうも、このズレが実のところあまり好きではない・・・中間部にはアニメソングのような軽快な旋律
がある。ただ、この楽章・・・不思議と頭に残る。「いやだ」といいつつ気になってしまう。
2楽章はじつにのんびりした主題を変奏していくが、この主題とてつもなく長い・・・3楽章も転調を
繰り返し、なんとなく作ったような曲に聞えてしまうのだが、後半の展開が実に面白い。終わりそうでなかなか
終わらないのにあっさり終わる。1楽章から3楽章まで一貫して不思議な曲である。
◆ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調テンペスト」 Op. 31 No. 2
ピアノ:ファジル・サイ

テンペスト」の名前の由来は、ベートーヴェンが弟子のシントラーにこの曲の解釈について質問された時に
シェイクスピアの『テンペスト』を読め」と答えたという逸話からである。しかし、このシントラーは結構
くせのある人物だったようで、この逸話の元になっているシントラーの伝記自体本当かどうか疑わしいらしい。
実際は伝記に書かれたはるか後になってベートーヴェンの秘書役になっているので、ベートーベンがそのころ
シントラーに向かって話したかどうか?ただ、例え嘘であってもテンペスト「嵐」「暴風雨」「動乱」を意味
するが、どことなく人間の激昂する場面や恐怖、修羅場を表しているような第1楽章で、なかなかいい命名かも
知れない。1楽章は、終始重いのだが旋律は美しく、ドラマティックでそれが妙に心を揺さぶる。そのやるせない
気持ちを救ってくれるのは2楽章の旋律である。3楽章は有名な旋律だが、あらためて聞くと主題を繰り返しながら
変化させ、実に巧妙な構成になっている。展開部のロマン主義的な転調には惚れ惚れしてしまう。
◆ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 Op. 31 No. 3
ピアノ:アルフレッド・ブレンデル

作品31の3曲の中にあって4楽章構成の曲である。緩除楽章が無く、Allegro−ScherzoーMinuettoーPresto
第1楽章は問いかけるような主題が特徴のソナタ形式だが、冒頭はまるでジャズクラブで流れてくるような和音で
タタタターン、タタタターンという運命の動機が現れているといわれている。第2楽章はスタカートの多いスケルツォ
だが、この曲は結構お気に入りで堂々としているところに好感が持てる。途中から力強さを増し、いかにもドイツ
という感じが何ともいえない。第3楽章のメヌエットは歌曲のような美しい旋律を聞かせてくれる。第4楽章はタランテラ
のリズムが用いられている速いテンポのソナタ形式であるが、じつに生き生きとしていて楽しい曲である。