読了17 小川洋子『ブラフマンの埋葬』ブラフマンの埋葬作者: 小川洋子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2004/04/13メディア: 単行本 クリック: 10回この商品を含むブログ (130件) を見る

友人が亡くなることを知る前に図書館から借りていたが、何か曰くありげで読んでみた。
本作は2004年の泉鏡花賞の受賞作であり、泉鏡花の『高野聖』を読みながら感じた
霞の中の情景というイメージと重ねつつ「なるほど泉鏡花賞か」と思ったし、堀辰雄
描く風景とも重ね合わせたりもできた。また同年に読売文学賞本屋大賞受賞を受賞した
博士の愛した数式』の作者の描いた世界なのかという感想もあって、小川洋子氏の
文学における多様な表現力にただただ驚いた。
図書館でこの題名を見出したとき「ブラフマンって聞いたことあるが何だっけ?」と
思っただけで選んだ。物語に登場するブラフマンと称される生き物は、森からやってくる。主人公の青年は
さまざまな芸術家に、活動の場を提供する館の管理人である。ブラフマンは犬のような
イメージを持つが水かきを持ち、尾はかなり長く生物学的な名称は書かれていない。
時代設定や、場所もすべて創造の中であり、キキが現代を生きたように、千尋が別世界
に迷い込んだような世界である。こんも生き物と若者を中心にした人々が描かれ、題名の
通りの結末を迎える。
この本を読みながら、先日なくなった友人を思い描いていた。小学校で同じクラスでありながら
中学ではクラス会の役員でたまに会ったり、大学に入っても数回お茶をしたりという間であった。
その頃の思い出は不思議な世界である。印象に強く残っていて教室のどの場所でその話を聞いたか
とか、その時に見えていた場面がそのまま頭に焼くついていたりするが、その前後の事象が思い出せない。
この作品に描かれている風景や人物との会話もまた、思い出の断片としてイメージをしていた。
読み方も感じ方も自由であろうから、今の自分なりの本書の受け止め方での味わい方だった。
不思議とブラフマンの死が哀しく思えなかったのは、これだけブラフマンとの思い出があることが
主人公の青年にとって幸せなのだろうなと思えたからかもしれない・・・・・
なおのことブラフマンという名前がつけられたのが意味あることのように思えた。
ブラフマンとはバラモン教における宇宙の本体(梵)であり、人間の本体であるアートマン(我)
が一つになり輪廻から解脱できる・・・」