あの日にドライブ

読了 荻原浩『あの日にドライブ』

あの日にドライブ

あの日にドライブ

荻原作品は、ところどころにユーモアのセンスが一杯で、読んでいるうちに
思わず笑みが漏れてしまう。この作品は、そんな中にあって場面設定は
かなりシビアな世界だっただけあって、前半は深く考えさせられてしまった
作品だ。
エリート銀行マンがひょんなことから上司に反抗し、封建的な銀行社会から
放り出されてしまう。そしてたどり着くのがタクシー運転手。
あの時ああしとけば良かった、あの決断が今の不幸を呼び寄せている。
誰しもが思う、不幸な境遇での邂逅。
しかし、日に日にそんな自分を変容させる出来事に出会いながら、主人公が
大きく成長をしていくさまは、後半になってから描かれる。
クライマックスでは、あの荻原節全開で、読んでいて思わず笑ってしまう
語り口が光る。
全体としては、オール読み物連載に加筆しながらまとめた作品であり、
前半はやや冗長な感も否めないが、後半の痛快さを味わうには十分な
前置きであるかもしれない。作品の中で、銀行社会とタクシー業界が見事に
描かれていて、両者へのイメージが大きく揺らいだ。
結局、後ろを見ていても、ため息ついていても人生は良いほうにはいかない。
そんな気づきをこの作品からもらった。
そういえば、寅さんが言っていた「人間なんのために生きているかって?
生きているうち『ああ、生きてて良かった』って思う時がたまにあるじゃない。
そのために人間生きているのよ・・・」
人生捨てたもんじゃないぜ。きっといいことあるよ。